同時通訳者という職種の、基礎知識の広大さ。

旅行者の朝食(米原万里)
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作者である米原万里さんロシア語の通訳者である。
国際会議で同時通訳もする一流の通訳者であり、ロシアや通訳の仕事に関するエッセイをたくさん書いている。

そして今回のテーマは食べものだ。

ロシアや日本の暮らしの中での食の体験をつづっている。そしてその知識と話題の豊富さには、まったく脱帽なのである。

彼女がどうしてこれだけの話術を身に着けたのか、それは同時通訳者という職業が大きく関係しているようだ。同時通訳というものは、通訳をする会話の主旨が通じるのは最低限の仕事で、話者が意図したニュアンスをも、伝えなければならない。

たとえば会議の冒頭でアイスブレイクを狙った一言などは、ユーモアを感じさせる表現が必要になってくる。これをこなすためには、話者がもっている知識の素養を把握しておく必要がある。これが非常に難題なのである。

国際会議などに出席するロシア人はだいたい知識階級である。つまりヨーロッパの知識階級であり、そういった人物が常識としてもっている知識の素養を理解していなければいけない。発言者の気の利いた一言を、ニュアンスも含めて瞬時に翻訳するためには、平時からどれだけ知識を蓄えているかがカギになるのだ。

その知識の内容は、たとえばギリシャ時代の古典や逸話やアフォリズム、ローマ時代のそれ、そして同じように当然、ロシアの歴史や文化やエンタメや流行りもののあれこれも含まれる。

なんとも膨大な情報量である。

米原万里さんは、その知識を自在に引っ張り出して、話を膨らませる名人なのである。著者のすごさと、通訳者という人種の屋台骨の太さを実感できる。

作者・ロシア・食の魅力あふれるグルメエッセイ。

どのエピソードを読んでも、必ず興味を惹かれる知識やトリビアが織り込まれていて、読み進めるが楽しくて仕方がない。そしてロシア人の正体も、よく見えてくる。

旅をしていると、道行くロシア人に英語で話しかけると、冷ややかな態度をとられることが多い。しかしロシア語で挨拶をすると、とても人懐っこく返事をしてくれる。そしてロシアで暮らす作者は、彼らの生活に触れることで、ロシア人は実は非常にとっつきやすい人間であることを、私たちに示してくれる。

そのことも興味深いが、この本でもっとも面白いのは、好奇心と食い気の塊のような米原万里さんの、そのキャラクターだったりする。

気軽に読めて、学べて、知識欲が満たされ、しかしお腹は空いてくる。
そんな見事な食のエッセイです。

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旅行者の朝食(米原万里)の作品情報

book


Author米原万里

Publisher文藝春秋

ISBN-104167671026

ISBN-139784167671020

この情報は[旅行者の朝食]をもとに掲載しています。掲載情報は商品によって異なる場合があります。

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