インド人のヴァラナシ。旅行者のヴァラナシ。
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ガンジスに還る(2016)
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インドのヴァラナシはヒンドゥー教の聖地である。
その得体のしれない魅力に、たくさんの人が呼び寄せられてこの地を訪れる。
旅人にとってのヴァラナシは決して快適な場所ではない。暑い、うるさい、衛生状態は悪い、旅人目当てのハスラー(詐欺師とか)はいる、人が多い、牛も多い。
ヴァラナシを有名にしているのはもちろん、聖なる河ガンジスだ。
迷路のような路地を通り、牛とすれ違い、ガート(川沿いにある沐浴の場所)までたどり着くと、目の前が一気にひらけて、そこにガンジス川が流れている。<・p>
ガンジス川をはさんで遠くに向こう岸があるが、そこには何もない。川の向こうでは空と地平線が溶け合っている。それはまるで彼岸の景色のようだ。
眼下にはガンジス河で沐浴をする人たちがいる。泥のような川だが、ヒンドゥー教徒にとっては聖なる川であり、ここで体と罪を清める。
この川の水は濁って不衛生に見えるが、科学的な検査をしてみるとこの川には、ウィルスを殺菌する特有の成分がでたのだと、旅人の間ではまことしやかに噂されている。
だがこれまで多くの旅人がガンジス川で沐浴をしてきたが、だいたい腹を壊したり下痢をしたり体中湿疹まみれになっている。
さて、ここまでの話は旅人にとってのヴァラナシであり、インド人にとってのヴァラナシが、この映画だ。
ヴァラナシから見えるヒンドゥー教の死生観。
ある老父が、息子をともなってヴァラナシの宿へと入居する。そこは死期を悟った人物が、人生の最後を解脱に向けて過ごす宿で、インド中から死を前に解脱を望む人々が訪れている。滞在が許されるのは最大で2週間。その間に死を迎えない人は、他所へ移らないといけない。
映画はその宿で過ごす老父と周囲の人々を淡々と映していく。
人々の静かな生活は、どんな些細なことでも、大きな意味を持つように見える。
それは、私たちが死を通して生を観ているからだ。死を自覚して、ここにやってきた人々にももちろん、死への恐怖や葛藤はある。
だがこの宿の全体を支配するのは、とても穏やかな時間である。
この映画を観ると、ヒンドゥー教が死をどう捉えるかが、ぼんやりとわかってくる。それは、インド人達の不思議を理解する手がかりにもなる。
ヴァラナシの汚れた壁の向こうに、このような死への営みがあるなんて想像もしなかった。
このような映画は、混沌ばかりが印象に残るインドの、本質的なところの手ざわりを与えてくれる。
映像は美しい。
インド特有のビビッドな色遣いと、ヴァラナシの湿気を含んでざらついた空気感。そして悠久の時間に通じる、包み込むような優しいカメラワーク。
現代における死や、親子関係、そしてインドという国など、個別的で、かつ普遍的なテーマが詰まった一作です。
\ この場所に行ってみたい!/
ガンジスに還る(2016)の作品情報
Runtime99分
Genreヒューマン
Directed byシュバシシュ・ブティアニ
Castアディル・フセイン 、 ラリット・ベヘル 、 ギータンジャリ・クルカルニー 、 パロミ・ゴーシュ 、 ナヴニンドラ・ベヘル 、 アニル・ラストーギー
(C)Red Carpet Moving Pictures
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