世界中から様々な人たちが集まるニューヨークでは、旅行者も物語の主人公になれる。

この映画の二人の主役のひとり、ハリーを演じるのはビリー・クリスタル。サタデーナイトライブやグラミー賞の司会でおなじみのコメディアンで、生粋のニューヨーカーである。

もう一人の主役、サリーはメグ・ライアン。８０年～９０年代にロマンティックオコメディの女王といわれた女優だ。

この二人の組み合わせだけで、上質なロマンティックコメディは保障されたようなものである。

映画ではこの二人が偶然や必然の出会いを繰り返し、友達から恋人へと関係が変化していく様子が描かれている。

ニューヨークのロケ地の中でも旅行者にぜひ訪れてほしいのが、ロウアー・イーストサイドにある「KATZ’s　DELLICATESSEN」だ。いかにもニューヨーク！という活気のあるデリで、映画のなかでも特に有名なシーンが生まれた。

私が「KATZ’s Dellicatessen」に行ったのは、１１月のことだ。秋はそろそろ終わり、NYには厳しい冬の気配がしていた。

レストランのあるロウアー・イーストサイドは治安もよく、一人歩きにも不安がない。日系人にも人気のエリアである。

デリの前で現地の友人と合流したときには、すでに並びが発生していた。ニューヨーカーは意外と行列を苦にしないらしい。並んでいる人たちは、それこそ人種のるつぼ。ニューヨークならではである。

最後尾の人は、シカゴ近くの町から観光に来ているそうだ。映画は、見たことはないそうである。

映画を知らなくとも、この店は有名である。何しろこのデリはニューヨークでもっとも古いデリカテッセン（１８８８年創業）なのだから。

店の名物はパストラミバーガーで、テイクアウト目的のお客さんもたくさんいる。しかし、できれば店の中で食べてほしい。店内のネオンサイン、キッチンからの音、様々な人種の客たちの楽しそうな声など。まさにニューヨークといったエネルギーが溢れている。

ここで名物のパストラミ・バーガーをかぶりつけば、ニューヨーカーの市民権を得たような気分になれそうである。

実は私はタイムリミットがあったので、店の中までは入れたが、注文まではできなかった。映画と変わらぬ雰囲気を確かめてから、列を外れて別の店に移った。
今思えば、なんとしてでも食べておくべきだったと思う。

映画を見直すたびにそう思う。

だからニューヨークへ行ったら、ぜひこのデリを探してほしい。庶民的で、あの街の雑多な魅力が現れた、素敵な場所なのである。
もちろん映画を見ていくと、より感慨は深まりますよ。